コントレイル―空に刻んだ青い稲妻―

春の風がまだ冷たい、2017年4月1日。
北海道のノースヒルズ牧場に、一頭の青鹿毛の牡馬が静かに産声を上げた。

名はコントレイル。
偉大なる父、ディープインパクトの血を継ぎ、母ロードクロサイトの体内で育まれたその存在は、生まれながらにして「運命」と「期待」を背負っていた。

やがてその小さな命は、競走馬としての訓練を重ね、ターフを知る日を迎える。
2019年秋、阪神競馬場。デビュー戦――。
スタートゲートが開くと、コントレイルは他の馬たちを一瞬で置き去りにし、まるで風を切るように走った。
その軽やかな走りに、誰もが息を呑んだ。

次戦の東京スポーツ杯2歳ステークスでは、レコードタイムで圧勝。
そして年末のホープフルステークスでは、無敗のまま2歳王者へと駆け上がる。

だが、これはただの序章に過ぎなかった。

翌2020年――。
春のクラシック戦線が始まる。皐月賞では、強敵サリオスとの一騎打ちとなるも、直線でその差し脚を発揮し、父と同じく皐月賞を制した。
東京優駿、日本ダービー。コントレイルはさらに完璧な走りを見せた。
東京競馬場の直線を駆け抜ける姿は、空に軌跡を描く飛行機雲のようで、美しく、力強かった。
「ディープインパクトの最高傑作」――誰もがそう囁いた。

そして、秋の菊花賞。
三冠の重圧、長距離戦の未知、挑んでくるライバル――特にアリストテレスは、まるでそれまでの栄光を試すかのように、しぶとく食い下がった。
だが、コントレイルは負けなかった。
その脚は止まらなかった。
最後の一完歩まで、王者の誇りを胸に、先頭でゴールを駆け抜けた。

史上3頭目、無敗の三冠馬の誕生――。
その瞬間、空には真っ直ぐな白い線が伸びていた。

しかし、すべてが勝利のまま終わるわけではなかった。
その直後に迎えたジャパンカップ。
そこには三冠牝馬アーモンドアイ、そして無敗でクラシックを制した後輩・デアリングタクトが待ち構えていた。
歴史的対決とも言われた一戦で、コントレイルは初めて土を踏む。
だが、それは敗北ではなく、挑戦の証であり、限界の先を知る旅の一歩でもあった。

翌2021年。春の大阪杯では、重馬場に泣かされ3着。
思うように走れぬ日々が続くも、陣営はコントレイルにとって最後の舞台を、再びジャパンカップに定めた。

――東京競馬場、11月28日。

最終直線、馬場を蹴るその姿には、初出走の日と変わらぬ気迫があった。
鞍上の福永は叫ぶ。「行け! コントレイル!」
青い稲妻のように、コントレイルは抜け出した。
最後のゴールは、2馬身差の完勝。
歓声と涙と拍手の中で、彼は競走馬としての物語に幕を下ろした。

通算成績11戦8勝、無敗での三冠、そして有終の美。
その歩みは、飛行機雲のように、儚くも力強く、まっすぐに空を駆け抜けた。

引退式の日。
福永はコントレイルにこう語った。

「君は、父を超えたかもしれない。僕にとっては、間違いなく最高のパートナーだった。」

牧場に戻ったコントレイルは、今は新たな生命を育む日々を送っている。
だが、競馬ファンの心には、彼が描いた飛行機雲が、今も消えることなく残っている――。

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