血が叫び、才能が爆ぜる――
2000年代初頭、日本競馬の価値観を根底から覆すような馬が現れた。
その名は、キングカメハメハ。
爆発的なスピード、タフな持久力、気性の良さ。
そして何より、“産駒”という形で未来を塗り替えていった、唯一無二の存在である。
血統 ― 海外血統と日本競馬の融合
2001年3月20日、北海道早来町(現・安平町)ノーザンファーム生まれ。
父は米国産馬Kingmambo、母マンファス(The Minstrel系)という世界的良血。
当時の日本競馬ではまだ珍しかった、「完全外国血統」の持ち主だった。
それが後に、血統論の常識を覆す“革命”を起こすことになる。
デビュー ―「強い」のではない、「違う」
デビューは2003年11月。京都の芝1800m戦。
単勝1.5倍という圧倒的支持に応え、2着馬に7馬身差をつける圧勝劇。
続くエリカ賞では“異次元の末脚”を見せつけ、重賞・すみれSでも楽勝。
この時点で、すでに「この馬はクラシックを超えている」とファンの間で噂され始めていた。
三冠路線からの逸脱、そして新たな王道
2004年春、皐月賞を回避し、**NHKマイルカップ(GⅠ)**に出走。
そこでは、後にダービー3着となるメイショウボーラーをねじ伏せる、堂々の勝利。
「この馬には、距離も条件も関係ない」
そしてその言葉を証明するかのように、わずか中2週で出走した東京優駿(日本ダービー)――
直線では他馬を全く寄せ付けず、当時のレースレコード2:23.3で完勝。
芝1600m→2400mという“距離の壁”を難なく越えたその走りは、まさに「異次元」だった。
若き英雄の突然の終焉
秋のローテーションが注目される中、脚部不安により宝塚記念の調教中に骨折。
それはあまりに突然で、そして無念な引退だった。
だが、彼の物語はここで終わらなかった。
むしろ、ここから始まる「伝説」があった――
父としての伝説 ― 種牡馬としての無双
引退後、社台スタリオンステーションで種牡馬入り。
そして、彼の“第二の生涯”がスタートする。
その産駒は初年度から驚異の成績を残し、
ローズキングダム(ジャパンカップ)
ロードカナロア(香港スプリント連覇、安田記念)
ドゥラメンテ(皐月賞・日本ダービー)
レイデオロ(日本ダービー)
アパパネ(牝馬三冠)
……まさにGⅠ量産工場。
その血は、距離も性別も問わず、すべてに“結果”を刻んだ。
特に、ロードカナロア、ドゥラメンテ、ルーラーシップといった息子たちが今度は種牡馬となり、
「キングカメハメハ系」という巨大な系統を築き上げていく。
これは日本競馬の血統史上、ディープインパクトと並ぶ**“帝王血統”**である。
闘病、そして永眠 ― 血統に生きる
晩年は繰り返す脚部不安と闘いながらも、
2018年に種牡馬を引退。その後も種牡馬界の象徴的存在であり続けた。
そして2021年8月9日、安楽死の処置が取られ、20年の生涯に幕を下ろす。
彼の旅路は静かに終わった。
だが、血はまだ、生きている。
結び ― 革命は一頭の馬から始まった
日本ダービーを最も速く、最も強く勝った馬。
芝1600mから2400mを、苦もなく制圧した馬。
「父系が続かない」とされたKingmamboの血を、日本で最も太く、最も深く根付かせた馬。
キングカメハメハは、血の革命者であり、
そして――未来を照らす“灯”であった。
その名は、競馬史に永遠に刻まれている。
レビュー1
大王
大好きな馬です。
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