ドゥラメンテ「荒ぶる天才、ターフを統べる。」

蹄が地を蹴るたび、世界が震えた。

——ドゥラメンテ。その名は“荒々しく”“明確に”という意味を持つイタリア語。その名の通り、彼の走りは荒々しく、そして誰よりも明確だった。

春の雪がようやく溶けかけた北海道・安平の空の下で、彼はこの世に生まれ落ちた。厩舎に響いた産声は、やがて日本競馬界を揺るがす雄叫びとなる。

彼の体は繊細で、均整の取れた骨格とは裏腹に、育成初期は気性が激しく、扱いには注意を要した。まるで何かを焦がれるように、幼駒の彼は静かな牧場でただ走り続けていた。まだ誰も気づいていなかった。この鹿毛の若駒が、後に伝説となることを。

2歳の秋、東京競馬場の新馬戦。ゲートで立ち遅れた彼は、前が塞がれながらも直線でぐんと伸びた。結果は2着——だがその瞳には、敗北の色はなかった。

彼の時間は、そこから始まった。

翌走で圧巻の6馬身差勝利。重賞を制す者の風格が、そこにあった。誰もが思った。――こいつは、何かが違う。

3歳春、セントポーリア賞、そして皐月賞。気性難というレッテルを跳ね返すかのように、彼は直線でまるで「飛んだ」。あのリアルスティールを並ぶ間もなく抜き去る姿は、まさに“異次元”。

そして、ダービー。

東京競馬場、ターフの王道を征く最終決戦。発馬直後の不利、外に持ち出される距離ロス……それらすべてを彼は力でねじ伏せ、2分23秒2のレコードタイムでゴール板を駆け抜けた。

父・キングカメハメハの記録を、自らの蹄で塗り替えたその瞬間、観客の誰もが声を失った。

——これが、王の血だ。

だが、運命は時に残酷だ。

秋のトライアルを前に、彼の脚が悲鳴を上げた。骨折。復帰は未定。無念の声が調教師の背中にこだました。だがドゥラメンテは諦めなかった。彼は走ることを、やめなかった。

翌年、中山記念での復帰戦。彼は“怪物”モーリスを打ち破り、11か月ぶりの勝利を果たした。

そして海を越え、ドバイ。初の国際舞台。レース中に蹄鉄を失いながらも、彼は世界の強豪相手に2着。力でねじ伏せるその走りは、日本馬の威信そのものだった。

……だが、6月。宝塚記念。

あの日、阪神の芝は重く湿っていた。レース後、ドゥラメンテは異常を訴えた。立てない。右前脚の故障。会場が静まり返った。

「これが……最後か?」

騎手も、厩舎も、ファンも、信じたくなかった。

そのまま、彼は引退。無冠の秋を走ることなく、彼の走路は静かに終わった。

だが、ドゥラメンテの物語は、まだ終わってはいなかった。

種牡馬として彼は復活する。スターズオンアース、タイトルホルダー、そしてリバティアイランド——。

彼の血は、次世代の風となって、競馬場を再び駆け抜けた。

2021年8月31日。突然の急逝。9歳という若さ。種牡馬としての全盛を迎えるはずだったその時、彼はこの世を去った。

けれど、風はまだ残っている。

その瞳、その脚、その“荒々しさ”は、今もどこかのターフで生きている。

——名を呼べば、彼はそこにいる。

風を裂いた最強馬。
その名は、ドゥラメンテ。

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