クロフネ「異色の二刀流」

蒼い空の下、白く光る一頭の馬が、日本の競馬場に現れた。

芦毛──それは、年を重ねるほどに白さを増す毛色。
名はクロフネ。生まれはアメリカ、ケンタッキーの空の下。フレンチデピュティの血を引き、名門の庭で育った異国の子馬が、やがて東の海を越えてやって来た。異邦の大地で待っていたのは、気鋭の調教師。彼はその大きな眼に確かに“可能性”を見ていた。まだ何者でもない灰色の駒に、深く静かに、熱い炎が灯っていることを。

やがてクロフネは静かにデビューする。
2000年、秋の京都。初めてのレースではクビ差の惜敗。しかし、その目に宿る鋭さと脚に秘めた力に、多くの人々が「何かが違う」と直感した。そしてそれは、幻想ではなかった。

芝の1600mを1分33秒台で駆け抜ける。次のレースでは2000mを2分フラットで駆け抜ける。そして毎日杯。強者を圧しての圧勝。彼は、記録と記憶を一つずつ打ち立てながら、春の空へと飛翔していった。

春のGⅠ、NHKマイルカップ。東京競馬場。
空は快晴、観衆は歓声。クロフネは圧倒的な脚で、他馬を置き去りにした。
芝の王を目指して歩み始めたその足は、時に迷いもあった。しかし、ダービーで敗れたその日でさえ、彼の眼はまだ燃えていた。栄光への渇望を諦めることはなかった。

そして、秋。陣営はひとつの賭けに出る。
「ダートへ行こう」
未体験の舞台。芝とダート、異なる世界の壁。それを超えた者はいない。だがクロフネは、そんな“常識”を鼻で笑うかのように走った。

武蔵野ステークス。彼は一瞬にして砂を裂いた。1分33秒3──誰もが目を疑うタイムだった。
だが真の驚きは、その次にやってくる。

2001年11月24日、ジャパンカップダート。
1番人気、単勝1.7倍。その重圧に耐えたクロフネは、まるで嵐のごとく走った。
直線、他馬を置き去りにし、ゴール板を駆け抜けた時の差は、史上最大の「7馬身」。実況が叫ぶ。「なんだこれは! 強すぎる!」
彼は“芝とダートの二冠王”、唯一無二の存在となった。

だが、奇跡は長く続かない。
年末、屈腱炎が発覚。たった10戦で、その競走馬としての命は閉じられた。だが、誰もがその走りを忘れなかった。走るたびにレコードを打ち立て、見る者の心に風を起こす、白い“嵐”のような存在だった。

見た目は芦毛の穏やかさ、その走りには熱き闘志を宿す。芝もダートも制した異色の栄光。名牝ソダシを始めとする後継に希望を託し、黒船は静かに去り、未来へとうねる航跡を残した…。
カレンチャン。ホエールキャプチャ。そして──白毛の女王・ソダシ。彼女がゴールを駆け抜けるたび、人々は思い出す。かつて“白い黒船”がいたことを。

2021年1月17日、クロフネは天に召された。
23年の生涯。だが、その鼓動と蹄音は、今も耳に残る。

空を切り裂き、砂を巻き上げて、ただ一直線に走るその姿。
クロフネの人生は、羽ばたきを見せた“灰色の黒船”。その足跡を胸に、人々は今もなお彼の最強伝説を語り継ぐ。

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