競馬場の芝が、光に揺れていた。
その上を駆けるのは、どこまでも純白。
「白毛」とは、本来ただの毛色に過ぎないはずだった。
だが、ソダシはその概念を――いや、競馬そのものを変えてしまった。
2018年3月8日、北海道の大地にひっそりと生まれた一頭の白毛馬。
その名はソダシ。
名の由来は、サンスクリット語で「純粋」――まさにその名の通り、曇りなき走りと魂でファンを魅了し続けた。
“白毛は走らない”という常識を、走りで打ち破った。
競馬界において白毛馬は珍種。人気は出ても、勝てるとは思われていなかった。
そんな偏見に、ソダシは初陣で答えを突きつける。
2020年夏、函館の新馬戦。
3番人気の彼女は、軽やかに、しかし堂々と芝を駆け、白毛馬として史上初の芝新馬勝利を飾った。
そこからの快進撃は、まさに“白き衝撃”だった。
札幌2歳S、アルテミスS、そして2歳女王決定戦・阪神ジュベナイルフィリーズ。
すべてを勝ち抜き、無敗でGI戴冠。
純白の体をなびかせながら、ゴールを越えるその姿に、スタンドはどよめきと歓喜で満ちた。
勝利だけが彼女の物語ではない。
2021年、桜花賞。
史上初の白毛によるクラシック制覇。
だが、そこに至るまでにはプレッシャーと戦い、時に壁にぶつかることもあった。
オークスでは人気を背負いながらも敗北。
秋華賞では歯茎を傷つけ、10着。
それでも、彼女は倒れず、戻ってきた。
札幌記念、ヴィクトリアマイル。
古馬となっても色あせることのない輝き。
「白毛が芝で勝つ」という伝説を、“毎年更新される現実”に変えたのはソダシだけだった。
その走りには、“華”と“強さ”があった。
どんなに苦しい展開でも前を向き、どんなに注目を浴びても気品を保った。
時に、スタートゲートを嫌がってファンをハラハラさせ。
時に、砂の道(ダート)にも挑み、敗れても新たな景色を見せた。
そのひたむきさと挑戦心に、誰もが惹かれた。
彼女の勝利には、ただの数字では語れぬ「物語」があった。
それは観る者の心を打ち、涙さえ誘った。
アイドルではない。怪物でもない。
ソダシは、白き女王だった。
ラストランを待たずしてターフを去った2023年。
その美しき背中は、後輩・ママコチャに託され、新たな伝説へとバトンを渡した。
そして今、彼女は“母”として、新たな物語を紡ごうとしている。
走るたびに、観る者の心に光を灯した白い天馬。
その名は、永遠に記憶に刻まれるだろう――
ソダシ。唯一無二の白き伝説。
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